随想舎 

さよならのかわりにきみに書く物語

田中正造の谷中村と耕太の双葉町

一色 悦子 / 挿絵 篠崎 三朗

田中正造と鉱毒被害民は
みずからの命と生活を守るために闘った。
東電福島第一原発事故のために故郷を追われた
耕太たち双葉町民はどうすればいいのか。

田中正造を忘れていません。
 田中正造の谷中村は、国策の銅生産のために、鉱毒に苦しみ一人残らず村を追われた。ふるさとに生き土を耕し作物を作って食べる暮らしは、ぷつんととだえた。田中正造の「真の文明は山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」のことばをどう引き継いでいけばいいのだろうか。

福島を忘れていません。
 耕太は双葉町から転校してきて、福島に残る友だちにうしろめたい。ここで、原発に追われた双葉町のことをだれにもいいたくない。田中正造のように、もう聞きあきたといわれながら、大きな流れに逆らって、渡良瀬遊水地に消えた谷中村のことを叫び続けたりしていない。
 耕太は、いまのこころのふるえをきみに伝えたい。

東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故により、約10km離れた双葉町に住んでいた中学生の耕太は、茨城県古河市の祖父の家にひとりで避難した。そこで耕太は渡良瀬遊水地が足尾銅山鉱毒事件で重大な役割を果たしたことを知った。耕太は田中正造と谷中村民の闘いを調べるために、渡良瀬川最上流の足尾銅山跡へと向かった……。東電福島第一原発事故と足尾銅山鉱毒事件に迫る耕太の物語。

四六判/上製/160頁/定価1320円(本体1200円+税)
ISBN 978-4-88748-280-7
2013年10月1日 第1刷発行

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著者プロフィール

一色 悦子  (いっしき えつこ)

福島県郡山市出身。京都女子大学短大部文科卒業。「受験連盟」で毎日児童小説賞受賞。日本児童文学者協会理事。『海からのしょうたいじょう』(小学館)『どろぼう橋わたれ』(童心社)『麦ほめに帰ります』(新日本出版社)など作品多数。渡良瀬遊水地の近くに住む。

篠崎 三朗  (しのざき みつお)

福島県郡山市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業。日本児童美術家連盟、東京イラストレイターズ・ソサエティ会員。現代童画会ニコン賞、高橋五山絵画賞受賞。絵本、挿し絵多数。ミュンヘン国際児童図書館にて絵本『おかあさんぼくできたよ』(至光社)が国際的に価値のある本として選ばれる。

目 次

福島から転校して、遊水地に立つ
生きものが萌え出す野焼き
遊水地に、むかし、村があった
鉱毒で、花と虫と鳥と魚が消えた
草木が生えない裸山の足尾銅山跡
谷中村の鉱毒は七〇年続いた
国のために少数の国民はあとまわしになる
父に聞いてわかってきた福島原発
「棒出しは東京に洪水があふれないようにしたのです」
最後まで遊水地に残った一六戸の農民
谷中村民と、双葉町民は各地に分散した
田中正造に、ほかにたたかう方法はあったのだろうか
「敵地」という田中正造の臨終のことば
ことばでたたかう田中正造を助けた人たち
中間貯蔵施設には桜を植えて公園にする?
渡良瀬遊水地をラムサール条約湿地に
「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず」
耕太は、野波かりんにいまのふるえを伝えたい
 参考図書
 田中正造年表
 双葉町年表
 あとがき